はじめに
「公務員は安定している」「福利厚生が厚い」——よく耳にする言葉ですが、実際にどの程度本当なのか気になる方は多いでしょう。進路を考えている学生、公務員試験を目指す方、あるいは現役で続けるか迷っている方にとって、メリットと同時にデメリットを知ることは大事な判断材料になります。
管理人は中央省庁の本省で約10年勤務し、その後民間に転じました。本記事では、一般的に言われる公務員像を整理しつつ、管理人自身の経験を織り交ぜて、公務員のメリットとデメリットをまとめます。国家と地方、職種の違いについても触れていきます。
メリット① 収入と雇用の見通しが立つ
公務員の給与は「行政職俸給表」という基準で決められており、等級・号俸ごとの基本給は公表されています。したがって、おおよその水準は誰でも確認できます。
ただし、実際に受け取る額面は基本給そのままではありません。東京23区などでは地域手当が20%上乗せされ、本府省勤務には本府省業務調整手当(数万円規模)が支給されます。
管理人も本省勤務時は、基本給に加えて地域手当が約20%つき、さらに本府省業務調整手当や住居手当が入りました。結果として、公開されている俸給表よりも実際の額面は上振れし、生活設計がしやすい水準になっています。
昇給は、人事考課に問題がなければ毎年7〜8千円程度、評価が良い年は1〜1.5万円程度でした。役職が上がると月3万円前後増えることもあります。ボーナスは係長や課長補佐級で50万〜100万円程度の幅があり、評価によって十万円単位の差がつきます。
給与は毎年の定期昇給に加えて、夏に出される人事院勧告により、民間の給与水準を考慮して改定が行われます。東日本大震災後の数年間やコロナ禍の時期には据え置きや減額もありましたが、大きく下がることはなく、近年は毎年徐々に上がっている印象です。このように、給与が景気に大きく左右されにくい点はメリットといえるでしょう。
メリット② 福利厚生と共済制度
公務員は共済組合に加入し、各種の福利厚生制度を利用できます。宿泊施設やレジャー施設の割引といった優待もあります。
また、医療保険は非常に安い掛け金(月1,000円程度)で加入できるため、利用している人も多かったです。
住宅面では家賃補助(月2万8千円程度)が出ており、特に都心勤務の生活コストを抑える効果がありました。ちなみに公務員宿舎も存在しますが、築年数が古い物件(50年以上もざら)も多く、正直人気はありませんでした。
かつては財形貯蓄を利用する人も多かったようですが、近年はNISAやiDeCoといった制度で資産形成を行う人が増えている印象でした。つまり、制度は幅広く整っているものの、実際にどこでメリットを感じるかは人によって異なります。
メリット③ 休暇制度の充実
年次休暇、病気休暇、育児休業、介護休暇など、制度上は非常に充実しています。
育休については管理人が在職していた3年ほど前の時点で、職種を問わず女性はほぼ長期間取得できており、男性も数週間から数か月程度の取得が広がってきていました。
また、子育て世代に対する配慮は厚く、時短勤務や負担の軽い部署への配置などが行われていました。制度としては確かに充実しており、ライフステージの変化にも対応できる環境が整っているといえます。
ただし、制度と実際の使いやすさは別問題です。年休については、取得時に理由を問われることはなく、形式上は月に一度の取得が奨励されていました。それでも本省勤務の場合、国会対応などの要因から、実際に長期の休暇を取るのは難しい場面が多くありました。この点は「実態面の課題」としてデメリットに続きます。
メリット④ 社会貢献の実感とやりがい
社会や人の役に立ちたいと考える人にとって、公務員は大きな魅力があります。国家公務員なら政策や法律づくりに関与でき、地方公務員なら住民に直接サービスを届けることができます。
本省勤務時、若手であっても国会対応や施策の説明で大臣や国会議員に直接レクをする機会がありました。また、政策立案の際はその分野の有識者の意見を伺いながら進める必要がありますが、最先端の研究者や企業経営者に直接ヒアリングできるのは大きな魅力です。
管理人も有識者会議の素案づくりに関わり、それが政策パッケージとして世に出ていく過程を経験できたことは、大変ではあってもやりがいの大きい仕事でした。
ただし、常に新しい政策に取り組めるわけではありません。政策パッケージといっても中身は同じで看板の付け替えに終始するような場面も多く、本当に社会の役に立っているのか疑問に思うこともありました。使命感と徒労感が同居するのが現場のリアルです。
デメリット① 前例主義
公務員はリスクを最小化するために前例を重視する傾向があります。新しい制度や答弁を準備する際も、必ず過去の事例を探すところから始まります。
管理人が経験したのは、国会答弁に限らず、法令づくりや制度設計、調査分析、通知やガイドライン作成など、ほぼすべての業務でまず前例を確認するという流れでした。前例が乏しい案件は理屈が通っても通しにくく、膨大な時間と労力を要しました。
デメリット② 決裁の多さとスピードの遅さ
公務員の決裁の層は厚く、係長から課長補佐、課長、審議官、局長・・・といった段階を経ます。多くの目で確認するため誤りを防げる一方で、スピードは犠牲になります。
管理人自身も、差し戻しや表現の細かい修正だけで一日が終わることは珍しくありませんでした。品質を守ることとスピード感の両立は難しいのが実情です。
デメリット③ 異動と専門性の蓄積の難しさ
国家公務員はおおむね2〜3年で異動するのが通例です。幅広い経験が積める反面、一つの分野を深めにくいのが特徴です。
特に総合職は省庁内の幅広い分野を対象にローテーションが行われ、早い段階から多様な部署を経験することになります。一方、一般職は採用された業務分野の範囲内で異動するのが基本で、比較的その分野に腰を据えてキャリアを積みやすい仕組みです。
とはいえ、いずれの場合も数年単位での異動は避けられず、専門性を深めるよりも幅を広げる方向にキャリアが設計されやすい点は共通しています。
管理人自身も2年ごとの異動が続き、知識を深める前に次の部署へ移ることが多くありました。幅広い分野の経験は得られるものの、専門性を磨きたい人にとっては物足りなさが残るでしょう。
デメリット④ 評価と昇進の限界
評価によって昇給やボーナスに差はつきますが、昇進スピードに大きな個人差は出にくいのが実情です。特に国家公務員は年功的な要素が強く、課長級までは多くの人が到達します。
管理人が見た範囲でも、課長補佐〜課長への昇進は(多少の速度の差こそあれ)ほとんどの人が進んでいました。努力が即座に昇進につながるわけではなく、スピード感に欠ける印象は否めませんでした。
デメリット⑤ ワークライフバランスの厳しさ
制度上は休暇が整っていますが、実態としては必ずしも利用しやすいとはいえません。
本省勤務では国会対応が大きな負荷要因となり、会期中は深夜残業が常態化します。管理人自身も終電を逃す日が続き、生活リズムは乱れがちでした。休日でも緊急対応の呼び出しがあるなど、プライベートが制約されることもあります。
地方公務員も議会対応が存在し、議案作成や答弁準備などで繁忙期は残業が増えることがあると聞いています。ただし、その負担は自治体や議会の規模によって差があり、一概には言えません。
国家と地方、職種の違い
国家公務員は政策形成に関われる一方、住民との接点が少なく、「社会に役立っている実感」を得にくいことがあります。地方公務員は住民サービスの現場に立ち、感謝や反応を直接得られる場面もあります。その反面、窓口対応やクレーム対応などでストレスを感じることもあるようです。
職種の違いについては、組織による部分もあると思いますが、事務系(行政・法律・経済)と技術系で大きな差がないケースも多いです。医系技官のように専門性が前提となる職は例外ですが、多くの技術系職員も国会対応や文書作成といった事務作業をこなしていました。
民間との違いと向き・不向き
公務員は安定や正確さ、一貫性を重視します。国会や危機対応など、常に膨大な仕事が発生し続ける環境ということもあり、どちらかといえば降ってくる仕事をいかにこなすかという「受け身」の側面が強いかもしれません。
一方、民間はスピードや付加価値、成果の創出が求められます。管理人自身、現在はデータ分析の仕事をしていますが、常にクライアントへの提案や新しい価値を生み出す姿勢が求められ、公務員時代との思考の切り替えに苦労しました。
安定や調整に強みを持つ人は公務員に向き、変化や結果を出すことを楽しめる人は民間に向く傾向があると思います。
まとめ
公務員のメリットは、収入や雇用の安定、福利厚生制度の厚み、政策に近い位置で働けるやりがいといえるでしょう。
一方デメリットとして、前例主義、決裁の多さ、異動による専門性の薄まり、昇進のスピード感の欠如、ワークライフバランスの厳しさが挙げられます。
結局は、制度上の厚みと現場の現実をどう受け止めるか、デメリットに挙げた点にも自分が納得できるかどうかが公務員を続けられるかの分かれ目だと思います。本記事が、その判断の一助になれば幸いです。
FAQ
Q. 公務員の給与はどのように決まりますか?
行政職俸給表に基づいて決まり、等級・号俸で基本給が定められます。ただし実際は地域手当(東京23区は20%)、本府省業務調整手当、住居手当などが加わり、俸給表の数字より額面は上振れします。
Q. 昇給や賞与のイメージは?
若手〜中堅では年7〜8千円程度の昇給が一般的で、評価が良い年は1〜1.5万円ほど伸びました。役職昇進で月3万円程度増えることもあります。ボーナスは係長や課長補佐級で50万〜100万円程度の幅があり、評価で差がつきます。
Q. 休暇は取りやすいですか?
制度は充実していますが、本省勤務では国会会期中は非常に取りにくく、私自身は3か月に1度取れれば良い方でした。地方公務員にも議会対応があり、繁忙期は忙しくなることがあると聞きますが、運用は自治体や部署によって差があります。
Q. 公務員に向いている人はどんな人ですか?
安定や調整に強みを持つ人は公務員に向きやすいです。変化や結果を出すことを楽しめる人は民間の方が評価されやすいでしょう。
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